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兄とその妹 1939

2012.11.12.Mon.21:00
兄とその妹 1939 佐分利信 三宅邦子 桑野通子 124

監督:島津保次郎 脚本:島津保次郎 音楽:早乙女光
出演:佐分利信、三宅邦子、桑野通子、上原謙、笠智衆、菅井一郎、河村黎吉他
製作:松竹 1939年白黒104分

あらすじ:間宮敬介(佐分利信)は妻のあき子(三宅邦子)と妹の文子(桑野通子)との3人暮らし。碁が趣味で毎晩のように重役宅で対局している。そんな敬介を、キャリアウーマンの文子は職場での立場が悪くなるのでないかと心配している。実は前の職場でも重役との付き合いを詮索されて策謀にはめられ、退職を余儀なくされていたのだ。しかし当の敬介は出世にあまり興味はなく、日々堅実に働いているだけなので付き合いを変えることはない。そんな平穏な日々だったが、文子の上司の知り合いの御曹司(上原謙)が文子を見初め、彼が敬介の碁の相手である重役の甥であったことから、二人の結婚話が持ち上がる。御曹司は是非にと申し込んでくるのだが…。

ラスト3分の展開を予想できる人は100パーいないと断言できる!
なんだろうこの裏切られたけどガックリじゃない感は…!もう笑うしかないw

これはたぶん、1939年の映画だからなんだわ。戦後では絶対こんなラストにはならなかったはず。この後のことは考えない…。きっと敬介の仕事は上手くいって、2年ほどで日本の本社に帰ってきて、内海氏あたりが仲人になって文子も結婚するんだ。この作品の公開は春。この頃はまだ大陸に現実的に未来があったんだから、脚本の中では間宮家はきっと幸せになっている。だからこの3人は大丈夫。…そう思わなきゃやってらんない。戦前の映画にこんなとこで切なくなるとは思わなかったよ。

ネタバレはともかく、良い映画でした!好きです。もう3回ぐらい見ちゃった。
この兄妹のいかにもきょうだいなケンカ腰の会話や、義妹と妻の本当の姉妹のような仲の良さ、気の遣い方にほのぼのとした。そして第二次世界大戦開戦直前の日本とはこんなにも豊かだったのかと…こんな映画が作られるくらいに。結婚の話についても戦前と聞いてイメージするような価値観ではなくて、本人たちの気持ちが一番だというのが前提になっていて、良い意味でカルチャーショックでした。

冒頭、暗い夜の中を歩く敬介(佐分利信)をずーっと追っているのは何かサスペンスみたいで無駄にドキドキしたw何もなく普通に家に着いてほっとしたけど、何だったんだあの長回しはw

兄とその妹 1939 佐分利信 4

この影絵のようなシーンにまず見とれてしまいます。カチャンカチャンと鍵を回す音が急いでなくて(夫は寒い寒いとつぶやいているのにw)この夫婦のおっとりした空気感がこの場面からすでに表れている気がします。

登場人物たちの掛け合いがおもしろい。当時ではこれが普通だったのか、言い回しがなんか文語的で楽しくて、ついいっぱい書き起こしてしまいました。

兄とその妹 1939 佐分利信 桑野通子 6-3

出勤前、食卓の準備をする妹の文子と新聞を読んでいる兄の敬介。妻のあき子は台所仕事中。

文子「兄さん」
敬介「なんだ」
文子「そんな怖い顔しなくたっていいでしょ」
敬介「つべこべうるさいからだ」
文子「うるさく思うのは兄さんの引け目です」
敬介「別に、引け目を感じるような悪いことはしていない」
文子「そう思ってるから、私は反省を促す意味合いでつべこべ言いたいの」
敬介「お前自身の行いはどうかな」
文子「びしびし言ってちょうだい。大いに反省しますわ。何でも言ってください」
敬介「いばるないばるな」
文子「何にも言えないでしょ」
敬介「言える」
文子「どういうことです?」
敬介「お前の生活にはちっとも潤いがない」
文子「潤いって、柔らかみがないってことですか?」
敬介「そうも言えるし、つまり…四角定規すぎるんだな」
文子「もっと具体的に言ってください」
敬介「あまりにも物事が主観的であり、人間的臭みがちっともないってことだな」
文子「わかりませんねえ」
敬介「わからない?困ったな。ま、融通性に富んだ生活をしたらどうだってことだ」
文子「それは性格であって、生活じゃありません」
敬介「ん?」
文子「兄さんの詭弁脆くも沈没」
敬介「それで得意なんだから嫁にも行けないんだ」
文子「行かないのよ。行こうと思えば明日にでも行きます」
敬介「そんな自信は一人だけで通用することであって、結婚とは相手があって成立するもんであるってことを知らんのか」
文子「説明されるまでもなく暫時承知です」
敬介「お前とは議論してると頭が悪くなる」

兄とその妹 1939 桑野通子 8

兄とその妹 1939 佐分利信 10

本題はあき子が昨夜から風邪気味であること。

文子「兄さん、それよりか姉さんの体が悪いことですけど」
敬介「また始めやがった」
文子「とにかく早くお帰んなさい」
敬介「俺だって早く帰りたいんだ」
文子「ですから、碁をやるんでしたら重役室で、しかもお勤めの時間だけやらしてもらったらどうです?」
敬介「無茶言うな」
文子「家庭の時間まで重役連の奉仕に捧げるなんて」
敬介「まあ待て、そう一概にお前のように言ったって…」
文子「そりゃあ兄さんは碁が好きだし、強いんだから、自分の趣味として夜遅くまでやる分には何にも言うことはないのよ。ただ、その趣味を利用して」
敬介「重役連に取り入るというのか?」
文子「と、第三者は考えると思うの」
敬介「そう思うやつは思わしときゃいい」
文子「そればかりか、そのために家庭までその余波を受けるなんて、つまらないと思うのよ」
敬介「そう言うが社員として、上役連にいちいち逆らってもいられまい?」
文子「そういう意味じゃなく、たとえば私の会社のように、事務的価値、つまり、各自の技量価値のみを認める」
敬介「わかってる」
文子「これは重役連もそうだけど、社員たちの自覚も必要だと思うのよ」
敬介「それだとまるっきり人間接触の温かさを否定することになるぜ」
文子「いいえ、公私の区別さえはっきりしたら」
敬介「それは言うべくして難しい問題だよ」
文子「わけありません。要は、兄さんが、早く帰宅すること。重役連の私宅に入り込まぬこと」
敬介「それが結論か?はっはっは」

あき子「もう八時近くですよ」
文子「あっそう、急がなきゃ」
敬介「ちょっと来てごらん、熱あるかな。…少しあるな。八度ぐらいかな」
あき子「そんなにあるかしら」
敬介「お医者に診てもらった方がいいんじゃないかな」
あき子「ただの風邪ですもの。そんなに心配しなくったって」
文子「食べ物の味変わってる?」
あき子「少し」
文子「じゃあ出がけに声かけてみるわ」
敬介「ああそうしてくれ。どうせ往診は午後になるだろうけど。もし来られたら午前中に急いで来てもらった方がいいぞ」
文子「どれ遅刻すると大変だ。急がなくちゃ急がなくちゃ急がなくちゃ。兄さんもお急ぎなさい。急がなくちゃ急がなくちゃ…」
敬介「うるさいな、まるで追っかけられてるみたいだ、気をつけろ」

文子は遠慮なく兄に物を言うんだけど、軽んじてるんではなく、お互いを認め合っているからこそ思ったことを言う。敬介も「うるさい」とか言うけど決して封建的とかじゃなくて、この時代の男性としても今の時代の男性としても、リベラルで穏和で家庭にも協力的。何しろ早く帰った午後、妻と一緒に雑巾がけなどしてくれる!すっかり惚れてしまいました。仲の良い夫婦って見ていてとても幸せな気持ちになれるから好き。

兄とその妹 1939 佐分利信 桑野通子 三宅邦子 12

宝塚の男役トップスターみたいな出で立ちで颯爽と出勤していく文子。

兄とその妹 1939 桑野通子 16

兄とその妹 1939 桑野通子 27

この美脚!70年以上前の日本女性とは思えない。ウエストも極細で手足も細く長く、桑野通子は本当に奇跡のスタイルでした。

兄とその妹 1939 桑野通子 笠智衆 22

通勤電車の中で、文子は内海(笠智衆)とばったり。内海は敬介の前の職場の同僚で、敬介が退職した後に彼もまた嫌気がさして退職しており、今は自分で会社をやっているという。
前の職場でのことがあるから、文子も心配しているんだよね。

敬介と文子が外で働いている間、家事は妻のあき子が引き受けています。着物姿で繕いものやお料理、その合間にハタキやホウキを持ってお掃除する姿が美しい。

兄とその妹 1939 三宅邦子 29

長火鉢にかけたお鍋の中ではおいしそうな煮物が…

兄とその妹 1939 三宅邦子 35

時々鍋の蓋を開けて様子を見るあき子。ふわあっと湯気が広がって、もう幸せな場面!具は何なんだろう、よく見えないけど丸いのはイカ?あとは大根とかじゃがいもとかかな。当時の煮物がどんなものなのかよくわからない~。でも絶対おいしいよね。これと白いご飯とお味噌汁と…ああ作ってみたい。具が何かわかればなあ。

すると道に面した庭の方から、匂いを嗅ぎつけた文子の声が。

文子「なあに、美味そうだね」
あき子「なんだかわかる?」
文子「わかんないけど、いい匂いがここまでしてんの」
あき子「食べたら不味かったってね」
文子「あははは」

文子「ただいま」
あき子「お帰んなさい」
文子「寝てなくってもいいの?」
あき子「扁桃腺を焼いてもらったら、いい按配に熱が下がったのよ」
文子「ここ(喉を指して)だったの。銀座でアイスクリーム買ってきたのよ」
あき子「ごちそうさま」
文子「寒いけどいいでしょ」
あき子「熱の時は欲しいもんよ」
文子「だろうと思ってさ。おお柔らかそうだ」
あき子「とろ火で、もう二時間以上も煮たのよ」
文子「美味いわよ、きっと」

兄とその妹 1939 三宅邦子 桑野通子 44

文子「お姉さん、おもしろいことがあったのよ」
あき子「なあに?」
文子「あのねえ」
あき子「うん」
文子「支配人のゴルフ友達なんだけど、よく事務所に遊びに来ては支配人を誘い出すのよ」
あき子「うん」
文子「それはいいけど、そのたんびにあたしの悪口…まあ悪口とまではいかないんだけど、こそこそ話し出すのよ。それもねえ」
あき子「うん」
文子「こそこそ言ってるうちはよかったんだけど、つい興が乗って、ほら、お医者さんが患者さんにわかんないようにドイツ語使うでしょ」
あき子「うんうん」
文子「あのつもりでねえ」
あき子「ええ」
文子「支配人とあたしの前で英語でしゃべり始めたの。支配人も人が悪いから、あたしの方を見ちゃ頷き合ったり、目で笑ったり、さんざんしゃべらしてから、あたしの方向いて『ここのタイピストは非常に英語が堪能ですよ』って、タイプライターを指差したもんよ」
あき子「うっかりしてたのね」
文子「そう、顔を真っ赤にしてね」
あき子「愉快だった?」
文子「その慌て方、却って気の毒になっちゃったわ」

そして今日謝罪に来た男性に「お詫びに食事でも」と誘われたという文子。でも「主人が家におりますので」とウソついて断るwきまり悪そうにそそくさと帰ってしまう上原謙。もったいなーい!

兄とその妹 1939 桑野通子 51

兄とその妹 1939 上原謙 49

上原謙がはっきり映るのはこのシーンぐらい。美形だ…この時代にこんな西洋っぽい容姿の人がいたらたまらないよね。どうしてこんな鼻筋とか彫の深さなんだろ。桑野通子のスタイルといい上原謙の容姿といい…この二人がもし噂通り現実に結ばれていたら、どんな家庭になっていたことだろう。

ちなみに文子の上司の支配人荒川は、菅井一郎さん。麦秋で父親役をやっていた方。童顔で人の好い独特の雰囲気を持っている人だなあ。

ある日の平日の午後に開かれた、文子のお誕生日パーティー。文子の女学校時代(たぶん)の友人4人と、あき子も一緒になってごちそうを囲む。おしゃべりしながら歌を歌っていたので、歌詞を調べてみたら『愛馬進軍歌』という歌でした。

 国を出てから幾月ぞ
 共に死ぬ気でこの馬を
 攻めて進んだ山や河
 取った手綱に血が通う

やはり戦前というか、戦争の時代なんだなあ。若い女性が集まってこういう歌を歌うなんて。

兄とその妹 1939 桑野通子 65

みんなで歓談しながらごちそうを食べていると、文子に贈り物が…。

兄とその妹 1939 桑野通子 三宅邦子 67

あき子「贈り物よ」
文子「誰から?」
あき子「手紙が入ってるそうですよ」
文子「使い帰っちゃった?」
あき子「ま、開けてごらんなさい、わかるから」
幸子「怪しいぞ」
文子「心当たりがないから不思議なの」

箱の中に入っていたのは薔薇の花束と、英文の手紙。

幸子「さあご披露して」
文子「憎らしいのねえ」
満子「恋人か求婚者かどっち?」
正子「それを宣言してから開封すること」
文子「いいわよ、後ろ暗いことちっともないんだから」

幸子「(英文の手紙に)まあ気障ねえ」
文子「はばかりさま。お姉さん、あの人よ」
あき子「だあれ?」
文子「事務所へよく来る人」
あき子「ああ、あの不良青年」
幸子「これは手厳しい」
あき子「だって文子さんはご主人があるように嘘を言ったんでしょ?」
文子「それがこの文面じゃ、支配人がすっかり私のことしゃべっちゃったらしいの」
満子「少々ややこしい関係ね」
正子「早く読んでお聞かせなさい」
幸子「既婚者は探索の権利なし」
正子「どうして?」
幸子「恋愛と結婚の話なんて一人半(妊娠中)の方には必要ないでしょ?」
正子「まあ、悪たれねえ」
全員「あははは」

兄とその妹 1939 桑野通子 70

恥ずかしながら「はばかりさま」ってナニ?だったので調べてみた。「恐れ入ります」とか「おあいにく様」という意味らしい。ほうほう。

文子「じゃあ読むわよ」

『あなたのお誕生日をお祝いします。
もしお気に障ったならば、ゴミ箱にでも、どこにでもお捨てください』

幸子「もったいない」
満子「黙って」

『あなたが未婚であることも、荒川氏からお聞きしました。
私の行為(好意?)は決して失礼ではないと信じます。
有田道夫、間宮文子様』

あき子「すっかり独身だっていうこと、見破られたのねえ」
文子「うん」
幸子「結論は、文子さんに対して好意を示した真心込めた贈り物だわ。乾杯」
全員「乾杯」
文子「こんなことされたら、あたし少々変な気持ちだわ」
満子「変って?」
文子「はっきりした心持ちは説明できないけど…いやあね、なんだか」
幸子「そんなこと今から検討したって始まりません。有難く頂戴しておくこと」
満子「賛成よ」
文子「お姉さん、他に花瓶あったかしら」
あき子「ええ、あるある」

この後花瓶に薔薇を生けた文子が指に棘を刺してしまうのですが、それを「見せてごらんなさい」と言ってあき子が口で吸ってあげるシーンがありました。当時は家族同士、女同士の距離が近かったよね。今じゃありえない行動だと思うけど、さらっと普通に描かれているし自然だった。ちょっとドキっとしたけどw

そうしているうちに、身重の正子が先に帰るのをあき子が駅まで送りに出て行って…

兄とその妹 1939 三宅邦子 75

満子「さあ、文子さん、さっきの話続けて」
文子「もう嫌よ」
満子「お姉さんも留守のことだし、突っ込んだ意見が言えるはずよ」
幸子「満子さんときたら結婚哲学に終始してんのね」
満子「もち。真の人生は結婚からってこと、知らないの?」
幸子「知ってる。つまり文子さんの立場は欲が深すぎるってことになんの」
文子「どうして?」
幸子「それは自分の稼ぎと仕事に未練があって」
文子「稼ぎなんて、えんやこらのようだわ」
幸子「失礼。つまり男性と同等の生活力のために、結婚圏内からはみ出されたって形ね」
満子「共稼ぎってこともあるでしょ」
文子「どうして稼ぐ稼ぐって言うのかしら」
満子「これは失礼」
幸子「旦那様の方が月給が少ない場合を考えたら」
満子「権利義務の点で、あべこべね」
文子「そういう意味でなく、真に愛する夫であったら、物質なんて超越してしまうと思うわ」
幸子「それは結婚後の話で、結婚の相手を探求する場合は、おのずから利害を限定して考えんのよ。ね、満子さん」
満子「そ、幸子さんのおっしゃる通り」
幸子「だから文子さんの場合は、自分を捨てるか、相手に求めるか、二つの道を選ぶわけだから、結婚観が難しくなんのよ」
文子「実際問題から言ってそう言えんのね。それに、姉さんの結婚生活を見ていると、いささか考えさせられんのよ」
幸子「ご夫婦の気持ちなんか見ただけではわかりません」
満子「そこいくとあたしの場合は単純よ。相手が逃げちまうから」
幸子「そんなことないでしょ」
満子「だめ。生易しいばかりじゃ、家族として添いきれないんですもの」
文子「それは自分の僻みよ。大いに発展性を持たなくっちゃ」
幸子「それこそ共稼ぎもいいってね」
満子「でも正子さんのようになったら働けないし、考えると嫌になっちゃうわ」
幸子「もうそんな話はやめて、歌でも歌わない?」
文子「じゃあ、デュエットで歌いましょうよ」
満子「ちょっとやけっぱちな形ね」

四人でもデュエットっていうのかw
歌い出したのは『野ばら』。歌詞を書き出してみると、今のものとかなり違う。

作中で歌われた野ばらはこちら。

 童は見たり 野道の薔薇
 穢れを知らぬ その美しさ
 心奪われ 飽かずに眺む 野道の薔薇

 手折りて見たや 野道の薔薇
 手折らば手折れ 我は嘆かず
 思い出草に 棘にて刺さん 野道の薔薇

 いずや童 手折りにけり
 棘にて刺せど そのかいもなく
 あわれや薔薇は 手折られたり 野道の薔薇

こちらは今の歌詞。

 童はみたり 野なかの薔薇
 清らに咲ける その色愛でつ
 飽かずながむ 紅におう 野なかの薔薇

 手折りて往かん 野なかの薔薇
 手折らば手折れ 思出ぐさに
 君を刺さん 紅におう 野なかの薔薇

 童は折りぬ 野なかの薔薇
 折られてあわれ 清らの色香
 永久(とわ)にあせぬ 紅におう 野なかの薔薇

耳コピなので確かではないけどたぶんこんな感じ。どっちの歌詞も美しい。後者の方がより詩的かな。前者は情景がわかりやすい。素晴らしいハーモニーと美しい歌詞で、一曲丸々歌ってくれて嬉しい。みんな歌が上手だ。

兄とその妹 1939 桑野通子 81

この時代の人や、今の60代以上ぐらいの人もそうだけど、合唱が好きだよね。年が過ぎても、みんな集まればさっと歌える。学校でいつも歌っていたんだろうな。ちゃんとハモリも分担して、ビブラートも美しく…。

兄とその妹 1939 三宅邦子 80

見送りから帰って来て、長火鉢で手を温めながら四人の歌に微笑むあき子。自身の女学生時代や、結婚前の雰囲気を思い出したりしているのかな…。

その夜。贈り物を買ってくると言ってまだ帰らない敬介を待ちながらの場面。

文子「お姉さん」
あき子「もうすぐ片付いてよ」
文子「明日にしたら?」
あき子「わけないのよ」
文子「もうそろそろ帰る時分ね」
あき子「何時?」
文子「11時過ぎ」
あき子「もう先お休みなさいよ」
文子「断然帰るまで頑張るわ」
あき子「明日のお勤めに差支えてよ」
文子「兄さんのことどうでもいいけど、今日のごちそうの費用やなんか、どのくらいかかった?」
あき子「そうねえ、9円ぐらいかしら」
文子「はっきり言ってよお」
あき子「(お財布を見て)9円70銭だわ」
文子「そう?いろいろありがとうございました。お返しします」
あき子「はい、お釣り」
あき子+文子「「ふふふ」」

あき子「気が利くのよ、あたしも贈り物」
文子「あら、すいません。(開けて中を見て、ストールか何か)ちょうどよかったわ、買おうと思ってたとこ」
あき子「さっそく役に立ったわけね」
文子「助かった。そのかわりお姉さん、今度の日曜には、今日のお礼にどっかお連れします」
あき子「兄さんを留守番にして?」
文子「そう。ほんとに出かけましょうよ」
あき子「久しぶりに、芝居が見たいわ」
文子「おごるわ、あたし」
あき子「今からお礼を言っとこっと。文ちゃんありがと」
文子「嫌だわ。ふふふ」

いいな。この二人のぎこちなくない義姉妹の雰囲気。基本ですますなんだけど、普通にくだけてもしゃべるし冗談も言ったりする。一応兄嫁と小姑の関係なのに、さっぱりしていてでも気も遣い合っていて、とても好き。

ある日のこと、敬介は碁の相手である重役に呼ばれ、重役の甥と文子の結婚話を持ちかけられます。文子に花を贈った御曹司は敬介の碁の相手である重役の甥だったと。しかし重役はどこから文子の見合い写真を…?w

兄とその妹 1939 桑野通子 92

兄とその妹 1939 上原謙 107

この見合い写真の美しいこと!二人とも映画スターみたい!ってそうだけどwいやー綺麗。

兄とその妹 1939 三宅邦子 90

その頃、銀行で順番待ちをしているあき子。三宅邦子美しいよ…。なんと控えめで、でも温かな空気を持った人よ。

その午後、敬介が碁をせずに早く帰って来る。

敬介「ただいま」
あき子「今日は早かったんですね」
敬介「ああ」
あき子「こんなことなら掃除をもっと早くしておけばよかったわ」
敬介「そうかい。いいさ、手伝ってやってもいいよ」

この二人の会話も好き。まだ結婚してから一年か二年ぐらいなのかな。敬介ニコニコだしあき子も嬉しそうだし。文子もいるところで話すのよりやっぱりちょっと違って、雰囲気がラブラブしてて可愛い。

あき子「どうします?」
敬介「何が?」
あき子「掃除の済むまでお風呂にでも入ってきますか?うちのはまだ焚き付けてありませんし」
敬介「たまに早く帰ってきたんだし、雑巾がけぐらい手伝ってやってもいいよ」
あき子「本当ですか?」
敬介「ああ、なんでもやるよ。文子は?」
あき子「まだ帰りません」
敬介「ふうん、今日は反対なんだね」

兄とその妹 1939 佐分利信 三宅邦子 97

敬介「うう、まだ水は冷たいな」
あき子「あたしが絞るから拭く方だけやってちょうだい」
敬介「いいよ」
あき子「鉄瓶のお湯を入れてあげましょうか?」
敬介「いらんいらん」

敬介「文子は遅いねえ。買い物でも頼んだのかい」
あき子「明日の日曜日にハイキングに出かけようって言ってましたから、入用なものでも買って歩いてんでしょ」
敬介「ええ?あいつ一人で行く気かい」
あき子「いいえ、あたしの体もすっかり良くなったし、三人で。あなたも引っ張ってくんだってはりきってましたよ」
敬介「おれもかい。ああ、出かけてもいいね」
あき子「久しぶりですね」

兄とその妹 1939 佐分利信 三宅邦子 106

本当に雑巾がけをやってて驚いたw仕事もできて妻と妹の仲も良好で家事も手伝うって、どんだけできる夫だw

敬介「ねえ、あき子」
あき子「なあに?」
敬介「文子をもらいたいという話があるんだ」
あき子「結婚の申し込みですね」
敬介「そう」
あき子「どういう人からです?」
敬介「有田さんから」
あき子「監査役の?」
敬介「うん。もらいたいって人は有田さんの甥なんだが、なかなか立派な方だ」
あき子「今日お話があったんですか?」
敬介「会社でね。甥なんだが、いずれは有田さんのご養子になる人だそうだ」
あき子「文子さんをどうして知ったんでしょうね」
敬介「うーん。取引上のことで、その人がよく文子の会社に出入りするようだから、それでだろ」
あき子「そういえば、誕生日に花を贈ってきた方があったんですけど、その方かしら」
敬介「ほお。そんなことがあったのかい」
あき子「ええ、でも重役さんからじゃ、別かもしれませんね。是非って言うんですか?」
敬介「うん。有田さんの奥さんも、一度文子を見たいとおっしゃってられる」
あき子「そいじゃ文子さんさえその気になれば、まとまるわけですね」
敬介「そうだな。あ、写真を見てごらん」
あき子「お借りしてきたんですか?」
敬介「ああ」

敬介が大事なことはあき子に一番に話すのがいいなあ。文子のことなんだけど先にあき子に伝えて、あき子の意見を聞く。夫婦円満、家庭円満なわけだと思う。

兄とその妹 1939 佐分利信 三宅邦子 108

敬介「ん」
あき子「立派ですわねえ…」
敬介「英国の大学を出られたんだそうだ」
あき子「それで語学が達者な文子さんが欲しいのかもしれませんね」
敬介「その点も希望の条件かもしれん」
あき子「重役さんからの申し込みですと、あなたもこの話を決めなきゃ気まずいでしょう」
敬介「ううん、そんな話は文子の一生に比較したら、なんでもないさ」
あき子「でも、あなたの勤めの上に響いてくることですもの」
敬介「いや、私事は別だよ。それよりお前、この話、賛成かい?」
あき子「私はあなたさえよければ」
敬介「じゃ文子に話をしてみる」
あき子「でもこういう話は、文子さんの機嫌のいい時にするもんですよ」
敬介「そうかい」
あき子「女にとって、一生をかける大切な話なんですもの」
敬介「うん」

兄とその妹 1939 三宅邦子 116

翌日は三人でハイキングへ。楽しそう…。

兄とその妹 1939 佐分利信 三宅邦子 桑野通子 128

白黒だからか、陽光が柔らかくて本当に気持ち良さそう。

兄とその妹 1939 桑野通子 130

そして高原を散策している文子に、おもむろに結婚の申し込みがあることを話す敬介。写真を見せられた文子は驚く。花を贈ってきたあの男性だった…。

兄とその妹 1939 桑野通子 143

「少し考えさせてください」と言って一人になる文子。憂い顔も美しい。

兄とその妹 1939 三宅邦子 149

兄とその妹 1939 佐分利信 150

兄とその妹 1939 桑野通子 151

文子「姉さん、今兄さんから写真見せられたのよ」
あき子「どう?」
文子「いつかお話ししたことがあったわね」
あき子「やっぱりあの方?」
文子「そ。姉さんも賛成ですって?」
あき子「でも、このことは文子さんの決意によることだし、賛成したからって何も…」
文子「それはわかってんの」
敬介「だからお前の考えを思うままに言ったらどうだい」
文子「ええ。今度のことに限らず、兄さんにも姉さんにも随分ご心配下さるんで、何てお礼言っていいか…」
敬介「そんな前口上はどうでもいいよ、話を進めるかどうするかだけ言ってもらえれば」
あき子「あなたのようにそう短気に言ったって…ねえ文子さん」
文子「あたしの心の中はもう決まってんのよ」
敬介「なら率直に言えばいいのに」
文子「兄さん何言っても怒らない?」
敬介「怒らん」
文子「あたしね…お断りしたいの」
敬介「そうか。嫌なんだね」
文子「ええ。いろいろ考えを突き詰めると、あたし自身にそぐわない点が、一つの矛盾として考えられるの」
敬介「その矛盾っていうのは?」
文子「あたしの思い過ごしだったらごめんなさい。つまり、結婚の相手が、兄さんの会社に関係してるという点が、あたしだけの問題じゃないと思われるの」
敬介「そうか…。重役の甥にお前を嫁がせる、それが俺の立場を守る一つの手段だと考えるんだね?」
文子「手段だと思いたくないわ。そのために兄さんの仕事なり、立場なりが、軽蔑されやしないか、それを恐れるの」
敬介「俺のためにせっかくの結婚を否定する…。その方が本当かもしれない。文子がそこに気付いたことは、やっぱり俺の仕事と、俺の立場を愛してくれると解釈すべしだ。なあ、あき子」
あき子「そうかもしれません。あなたが重役方の碁の相手をするだけでも、心配する文子さんなんですもの」
文子「ねえお姉さん、きっと会社の人達はそうした軽蔑の目を、兄さんに降り注ぐと思うの。それが悔しいわ」
あき子「よくわかるわ、文子さんの気持ち」
敬介「いや、俺はなんと言われようと恐れまい。ただ文子の幸福を祈るだけだ」

兄とその妹 1939 佐分利信 三宅邦子 桑野通子 153

もったいないと思ったのは私だけじゃないよね…!お似合いな二人、立場も釣り合う二人、何より最初の出会いが印象悪いっていうのがいいんだよー。結婚してほしかったなあ。甥でさえなければなあ。

兄とその妹 1939 桑野通子 栗羊羹 155

ハイキングから帰ってきた夜、家計簿を付けるあき子の向かいで栗羊羹を切る文子。パカっといい音させて底をはずしてさくさく切って、あき子に差し出す。

兄とその妹 1939 三宅邦子 桑野通子 158

おいしそう…。
煮物も食べたいし高原でコーヒーも飲みたいし栗羊羹も食べたいし…食欲そそられまくりです。

兄とその妹 1939 三宅邦子 桑野通子 159

今月分です、と言って家計費を渡す文子。この二人にはきっと催促したりされたりっていうことがないよね。お金のことでもめたりルーズになったりは絶対しなさそう。そういう雰囲気も、見ていて大好き。ちゃんとしてる人達っていいよね、当たり前だけど。

しかしこの平穏な雰囲気を脅かす出来事が。敬介の妹と重役の甥との結婚話を聞きつけた同僚(ちなみにこの同僚、先日見た「生きている画像」で絵にハマってしまう寿司屋の旦那を好演していた河村黎吉)が、それまでにも敬介を妬んで上役との癒着を仄めかして悪評をたてていたのを、一気に同調者を増やしてついに爆発する。その中の一人が敬介に不満をぶつけ、敬介を殴り、応戦した敬介とはげしくぶつかり合ってしまう。当の同僚はしらばっくれて事態の収拾にあたろうとするが、そうした策謀に嫌気が差した敬介はその場で辞職願を書いて会社を辞めてしまう。

兄とその妹 1939 佐分利信 161

超急展開です。そのまま家にも帰れず街を歩く敬介。
こんな時になんだが当時の東京の街並みカッコイイ。

夜半、行き場がなくなった敬介は内海の家へ。一晩泊めてくれと。

兄とその妹 1939 佐分利信 165

そして内海は話を聞くうち、自分の会社に来ないかと誘ってくれる。
大陸に手を広げる予定なんだがそこを手伝ってくれないかと。

兄とその妹 1939 笠智衆 167

「俺は碁もできんしな」と笑う内海…。

男泣きにむせぶ敬介。

兄とその妹 1939 佐分利信 169

兄とその妹 1939 佐分利信 170

ああん、よかったあ~。

ってちょっと待て。大陸?中国?え、ちょっ……

しかし時計は進んでしまうのであった。残り2分。もうどうしようもないさ。

兄とその妹 1939 佐分利信 三宅邦子 桑野通子 171

場面はもう空港(と言えるのだろうかこれは)。
内海が見送る中、敬介とあき子、文子は飛行機へ。

敬介「文子は俺が成功するまで結婚はやめにするそうだ」
内海「いい妹さんを持って君は幸せだ」

う、うん…。

そして旅立つ間宮家。

兄とその妹 1939 三宅邦子 176

兄とその妹 1939 桑野通子 177

兄とその妹 1939 佐分利信 178

あああ…ハッピーエンドなんだけど。

この後のことは考えてはいけません。未来からこの映画を見てはいけません。この後きっと敬介は成功して、またあの家に帰って来て、あき子との間に子供でもできて、文子は良い人と巡り会って(あの甥なら最高)結婚して、末永く幸せに暮らすの。絶対そうなの。それしか信じない。。


この度ほぼ初めて、桑野通子を見ました。動画とかでちらっと見たことはあったけど、一本丸々見て本当に彼女がスターであったことを実感しました。もう少し長く生きていたら間違いなく大女優として名前を残したであろうことも。表情や発声、テンポもすばらしく、天性の華やかさも持っているし、知的で優しげでもある。もっと彼女を見たくなって、他の出演作3本買っちゃいました。

最後はともかくwいい映画でした。この監督の他の作品も見たくなりました。小津監督と名前も似てるけど雰囲気も似てるかも。きっと好きなタイプ。どんどん作品がたまっていって時間がまったく足りません…!


☆追記(11/14)

間宮家の間取り図を書いてみた。思った以上にコンパクトな作り。こんなお家に暮らしてみたいな…。不便は不便なんだろうけどさ、長火鉢おいて、布団上げ下げして、お櫃からごはんよそって。あき子のように家事をしてみたいなあ。

兄とその妹 1939 間宮家間取り図

お手洗いはたぶん縁側の先。ところで書いてから気が付いたけど、この家には仏壇がない。両親がいなくて仏壇がないということは、両親はよそへ住んでるということ?でもそのわりに、文子の結婚話に両親の話が全く出てこない。ということはやっぱりもう亡くなってていないと解釈するんだけど…本家が別にあってそっちに祀ってるのかな。でも普通置くよね、実の両親の仏壇は。そこだけちょっと不思議に思った。
コメント
兄とその妹良いですね!ハマりました。かなり昔の映画だと思って観てたのですが何か今よりもおしゃれで素敵な生き方、生活をしている感じがします。
家族が思いあって暖かくて憧れてしまいます。 何回も観ちゃいました。
まだこれ以上の映画には出会ってないですね。
昔の映画ひっきりなしに観ているのですけどね。(^^ )
今の時代とはまた違って昔の映画も素敵ですね。
洋服とかその時代の家具とか景色なんか色々見るのは本当に楽しいものです。
おすすめです。(^^ )
Re: タイトルなし
なおまるさま


こんばんは❤
兄とその妹、良いですよね~。大好きです。
戦前ですけれど、朝からパンにバター、紅茶、お土産にアイス…
そして今では珍しい長火鉢や鉄瓶、戸棚などの家具や間取り、その家の中での動き方も目に美しくて。
文子もすごくおしゃれで、桑野さんの美しさは写真でだけ知っていたのですが、映像で見ると本当に近代的な美貌の方で驚きました。
新婚夫婦と同居の夫の妹というと小姑ということになりますけれど、本当に温かく、そして三人家族でいる楽しさや馴れ合いが見えて、楽しいですよね。
全部台詞を書き出してしまいたかったほどです。
ラストの展開には思うところも少々ありますが、この時代の空気としてこういう展開になったのかなといろいろ想像したりします。


つゆこ
兄とその妹
いい映画ですよねー。島津監督の「隣の八重ちゃん」も最後「ふっ」と終わるところが何とも言えない気持ちに。この時代、清水宏監督もそうなのですが、映画に「詩」がありますよね。
Re: 兄とその妹
みちみちさま


「隣の八重ちゃん」好きです。いいですよね。
中盤からの張り詰めた展開が、終盤哀しみを伴って高まったまま終わるのかと思ったら、あの笑顔のこぼれる結末で。
逢初夢子さんの最後のセリフが可愛らしくて瑞々しくて、作品をまとめる言葉としても八重ちゃんの言葉としても素晴らしいなと思います。


つゆこ

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名作の誉れ高い本作。 残念ながら絶版で、いつかテレビで放映されるのを待つしかないかなあと思っていたら、なんとYouTubeにあがってた! 画質に文句を言ったら罰が当たるな。 パブリックドメイン……大丈夫だよね?(笑)。 島津保次郎 - 兄とその妹 / Yasujiro Shimazu - A Brother and His Younger Sister(1939) - YouTu...
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